2014年の初夏。
私がワーホリで働いていた会社に、アルバイトで入ってきた台湾人学生Aちゃんの話。
当時、Aちゃんは試用期間中。
台湾の大学で日本語学科に通うAちゃんは日本語がまだ少し拙かった。
それでも一生懸命仕事をこなす彼女は笑顔が素敵な女の子だった。
ある日、取引先の人との打ち合わせにAちゃんが同席した時の事。
本題に入る前の軽い雑談中に注文したドリンクが運ばれてきた。
上司のコーヒー、Aちゃんのカフェラテ、私のジャスミン茶。
そして取引先の人が頼んだスライスレモンが沈むレモンティー。
初夏とはいえ既に蒸し暑い台湾の気候にマッチした清涼感たっぷりのレモンティー。
すると早速Aちゃん、可愛らしい笑顔で話題を振ってきた。
Aちゃん「今、レモンの皮についた薬がニュースになってますよね」
確かにその時の私達は最近のニュースについて話していた。
Aちゃんは当時台湾で問題になっていた輸入レモン残留農薬の話題を最近のニュースとして出してきたのだ。
輸入レモンの残留農薬問題…
普段の雑談であれば特に気にしない。
でもそれ、今言う?
今その話題出しますか?
取引先の人がレモンティー飲んでるのに。
心なしかスライスレモンちょっと厚めじゃないですか?
誰だって自分が今飲んでいる物に入っている(かもしれない)有毒物質の話なんてしたくない。
まさに今、美味しく飲んでいるのに。
取引先の人が気付く前にさりげなくAちゃんを止めつつ話題を変えねば。
テーブルの下で手汗を拭く私。
もちろんAちゃんには悪気は無い。
彼女がとても素直で良い子なのはよく知ってる。
私「そうだね~残留農薬のことかな?日本でも話題になっているよ。それでさっきの話なんですが…」
私のやんわり話題変更計画も虚しくAちゃんは止まらない。
Aちゃん「そうです!レモンの皮には毒が残っているんです!!」
笑顔で会話に参加するAちゃんの自信満々な顔を見れば分かる。
やっぱり彼女には微塵も悪気は無い。
というか多分気付いてない。
私の焦りにも。
思わず私は取引先の人のレモンティに沈むスライスレモンを見てしまった。
人間考えるなと言われたものは考えてしまうもの。
見ちゃダメと思いつつも私の視線はレモンティーに吸い込まれていく。
私「他の野菜や果物でも残留農薬は問題になっているし、世界中の問題だよね。ところで…」
Aちゃん「そうなんです。皮の…」
と言いかけたところで急いでAちゃんにテーブルの下でメモを渡した。
【毒の話は☓(バツ)】
毒の話をしない!なんてメモを渡す日が来るなんて思ってもみなかった。
そしてあの時のAちゃんの笑顔は素敵だった。
とても頑張って日本語で話そうとしていた。
良い子だった…
思えばAちゃんはかなりの天然だったかもしれない。
イベントで一緒に料理した時、包丁を両手で持ってみじん切りをしているのに指を切った事…
玉ねぎの皮剥きにハマって「楽しい!もっと玉ねぎの皮剥いていい?」と言い出した事等など…
よくよく考えてみれば愛すべき天然エピソードで思い出がいっぱい。
Aちゃん、今も元気で過ごしているといいなぁ。
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